事例紹介/リフォーム

築60年でも建替えない我が家
DIYとエコガラスで快適に

埼玉県 K邸

Profile Data
立地埼玉県上尾市
住宅形態木造軸組平屋建
リフォーム工期2008年6月(5日間)
窓リフォームに
使用した主なガラス
エコガラス

定年、引退…暮らしの変化は住まいに目を向けるきっかけ

定年退職などによる暮らしの変化を機に、住まいと改めて向き合う人は少なくありません。

直面するのは、数十年も前の規格・作り方で出来上がっている我が家の実態。「リビングはこんなに寒かったんだ」「一日中エアコンをつけていないと暑くていられない」「床が傷んでフカフカしている部分がある」…家に居る時間が長くなってからの発見は多様です。

建替やリフォームへの思いが頭をもたげてくるのも自然でしょう。
けれど、どうしよう。 今さら新築なんて大変かも? かといって、あと何年住むかもわからない古家を大きくリフォームするのも無駄では… 答えは一朝一夕に出せそうにもありません。

今回は半世紀以上の高経年建物を徹底的に断熱リフォームした住宅のお話です。しかもその多くはDIYによるもの。
さあ、訪ねてみましょう。

築60年でも建替えない我が家 DIYとエコガラスで快適に-詳細写真02

切妻屋根のコンパクトな平屋建のK邸。日当たりのいい南面には小さな庭もつく

天井裏からサイディングまで、DIYでまるごと断熱

舞台は上尾市の郊外です。住まい手のKさんが奥様とふたりで暮らすのは、築58年の木造平屋建。戸建住宅に断熱材など入らないのが当たり前だった時代の建物です。
この家のあちこちに、Kさんは40年前からさまざまに手をかけてきました。

最初は天井裏へのグラスウール敷き込み作業です。その10年後には室内側の壁や雨戸に発泡スチロール材を張りこみ、床も全部剥がして裏に発泡スチロールを入れ、張り直しました。

こうして、無断熱だった建物を四半世紀かけてぐるりと断熱化。壁や屋根、床から室内に入り込んでくる外の寒さや夏場の熱気を自力でシャットアウトしたのです。
さらに15年前には外壁のサイディング張りも行いました。

Kさんは建築の専門家ではありません。日曜大工つまり完全なDIYです。

大手電気通信機器メーカーで最先端技術の研究開発に従事していたKさんは「趣味ですね」とにっこり。
分野は違えど、自らの手でものをつくる計画力や作業推進力がここでも発揮されているのでしょう。

築60年でも建替えない我が家 DIYとエコガラスで快適に-詳細写真03

エコリフォーム後10年間の貴重なお話を、陽射しでぬくもるリビングでうかがう。工事を手がけた旭建硝の中西繁樹さんにもご同席いただいた

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薄いベニヤ板でつくられた雨戸の内側に、断熱・保温材として発泡スチロールが入れられている

唯一いじれなかった窓は、エコガラスのプロが断熱

ひとつだけ手に負えなかったのが、窓の断熱リフォームです。

アルミサッシなどなかった時代に建てられたK邸では、薄いシングルガラス入りの木の窓が使い続けられてきましたが、年を経て歪み、ガラスがずれ落ちて「1センチくらいも隙間ができていたんです。そこから風がそのまま流れ込んでくる。ひどい寒さで、ストーブや火鉢をつけていても室内と外の気温が同じでしたよ」

歪んだ窓は鍵を閉めても気密が取れず、隙間風が入ってきました。また浴室は大きな窓を通じて外の冷気が入り込むため、カーテンを吊って寒さを防いでいたといいます。

エンジニアであるKさんは、この寒さが窓に起因することに気づいていました。
「とにかくガラスから熱を逃がしちゃいけない」と、定年退職を機にインターネットを駆使して窓の断熱に関する情報を集め、解決方法を探りはじめます。

あるときメーカーに電話し、断熱ガラスへの交換について尋ねました。ところが相手から返ってきた答えは「家を建て替えた方がいいですよ」。
Kさんは情報収集の対象をガラス施工販売店に切り替えました。そしてついにエコガラスのプロフェッショナル・旭建硝のウェブサイトを探し当てたのです。

話を聞いた旭建硝の中西繁樹さんは、スペックに対するKさんの高い意識を見抜き、太陽熱の取り込みが上手なタイプのエコガラス+アルミ樹脂複合サッシによるエコリフォームを提案しました。
「Kさんのおうちは日当たりがいいので、日中は日差しを入れれば暖かくなるだろうと判断し、断熱が強すぎないエコガラスを選びました」と中西さん。

今から10年前にあたる当時、エコガラスはまだまだ出始め。室内の暖気を逃さない性能はあったものの、冬場に貴重なポカポカの太陽熱をも遮断してしまう面がありました。
そんな製品群から「なるべくゆるめのLow-E(中西さん)」の性能を持ったものを選択することで、敷地の強みを生かした窓リフォームが実現したのです。

工事は2008年、6月でした。

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エコガラスへの交換でもっとも大きな改善が見られたという、大きな引き違い窓のある浴室。以前はペンキ塗りだった壁は木の壁材を張っている。もちろんKさんのDIY

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建物の南面にはリビング・妻の部屋・寝室が並び、それぞれの掃き出し窓で日射を取り込む。庭の先には近所の農家が所有する畑地が広がり、何本かの植栽以外に日当たりを遮るものはない

築60年でも、DIY+エコガラス窓で必要十分な快適さに

エコガラスの窓リフォームで断熱改修の最後の1ピースがはめこまれ、「冬場の室内外の温度差が10℃くらいになりました」とKさん。キッチン以外のストーブをやめ、エアコンとホットカーペットで快適に暮らしています。

2月のある日を例に、暮らしぶりを拝見しましょう。
起床後、日中のほとんどを過ごすリビングのエアコンにスイッチを入れます。東と南にある窓から日差しが入ったところでオフにし、その後は午後7時頃の夕食までは、ホットカーペットに加えてカーディガンを一枚はおっていれば大丈夫。
ここ10年はこんな過ごし方だといいます。

寝室で使うのは音の静かなオイルヒーター。20℃設定で朝まで稼働します。
暖かい空気を吹き出すエアコンやファンヒーターと違い、輻射熱を利用するオイルヒーターは部屋自体がしっかり断熱されていることが前提の暖房機器。リフォーム後のK邸の高い性能がうかがえます。

ヒートショックの現場として悪名高い浴室も、エコリフォーム後は「無暖房で17℃です。窓を換えて“いちばんすごい”と思ったのはここですね」
開口自体が小さくて当初は効果を疑問視していたトイレも「全然違う。 暖かいです」

その一方で、北西に位置し日差しのない書斎はエコガラスの窓に換えても寒く「冬はパソコンのメールを確認するくらいで、あとは入りません」

日射が入らない北西の部屋は快適にならない、でも東南のリビングは日中はエアコンいらずの暖かさ…これは、南面に掃き出し窓を持つリビングがガラスを通して差し込む太陽熱を上手に取り入れて逃さず、長い時間を過ごす空間として快適に保たれていることを示しています。

中西さんは「Kさんの感覚の塩梅がちょうどよかったんだと思います」
「現代の断熱住宅のように最初からきっちり計算するのでなく、住みながら、段階を踏みつつ、暮らし方や部屋の使い方に合わせて断熱の程度も調整できるのがエコリフォームの良さですね」と続けました。

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6畳の和室をリビングとしてしつらえている。東に腰窓、南に掃き出し窓の2面採光で明るい

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寝室は南と西の2面採光。設置しているエアコンは夏専用で、冬はもっぱらオイルヒーターを愛用する

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エコガラスの掃き出し窓から取り込む豊かな太陽熱を、DIYで断熱した床や天井で逃さず保つリビング。エアコンは動いていない。2月中旬でも日中は暖房不要だ

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コーナーガラス窓のある明るいキッチン。エコガラス入りの開口は北と東を向き、日が入るのは午前中のみのため内部はひんやりしている。朝夕だけ石油ストーブを焚き、炊事を行う

古い家でも我慢せず快適に暮らす。エコリフォームはそのために

築60年近い古い家を、なぜ建て替えずリフォームしたのですか? 率直に問うと、Kさんは笑って「お金がなかったからね」
そして表情を引き締め「ここは自ら育て上げた家だから。あらゆる部分を自分で改造したから、自分自身なのですよ。木造の家は自分で手を加えていくほどよくなり、限界がない。百年でも持ちます」と答えてくれました。

その一方で、一般的な話として「高齢になると、家に対して積極的に関わるのは難しくなってくる」とも。
冒頭の“定年退職後、長い時間を過ごす家をどうするか”という問題がここで再浮上してきます。

Kさんによれば、高齢者は寒さや暑さ、窓の結露があっても、長年住み慣れた家ならば「しかたない」「そういうものだ」と考えがちだといいます。

実はけっこう辛い状況なのに見えなくなっている、あるいはあえて見ない、だからリフォームに踏み切れない…そんな面があるということなのでしょうか。

予算の有無以上に、“心の持ち方”だと思う。自分やそれより高い年代の人々の心情をくんでのKさんの言葉には、重いものがありました。

それでも中西さんは、Kさんのケースにはヒントがたくさんあるといいます。「簡単ではないかもしれないけれど、少しがんばって我が家の現状を見直せば、リフォームで今よりずっと快適な住まいにできる、ということでもありますよね」
そうそう、とKさんが相槌を打ち「とくに地方に行くとそういう例は増えるよ」奥様と共通の趣味として全国の街道を踏破する中、あちこちで見かけたと続けました。

エコガラスによる窓リフォームのメリットのひとつは“我慢しないで暮らせるようになること”。

Kさん流の徹底したDIYなどなくても、窓を換えると浴室のヒートショックの心配は減り、寝室では縮こまらず眠れて朝はすっと布団から出られる、リビングは夏も冬も長い時間心地よく居られるなど、改善されることはたくさんあります。
健康に直結する事柄も多く、とくに高齢者に対しては省エネ以上に貢献し得る点といえるでしょう。

大切なのは「寒くても暑くても、古い家はそういうものだ」という考えから一歩踏み出し「ここをちょっと変えたら辛くなくなるらしい。試してみようか」と思ってみることかもしれません。

春の一日、まずはぐるりと我が家の姿を眺めてみませんか。

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玄関脇は風呂の残り湯をトイレの流し水に使う装置。Kさんの自作で、1回分の残り湯で1日分のトイレに間に合うという。上部に見えるふたつの窓は、引き違いがトイレのエコガラス窓、右はKさんが書斎に自ら穿った明かり取り。ほかにもかつては電気自動車を所有するなど、高いエコ意識を根底に置いたライフスタイルを実践する

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リビング扉上部の小壁にも発泡スチロールが見える。寸法に合わせて切断したものを長押に差し込んであるだけだが、断熱性は向上。張りつけの作業がいらず簡単なので、一度真似してみてもよいかも

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暖かい陽を受けたトラスが濡れ縁に影を落とす。どちらも我が家を心地よくするため手作りしたものだ。ぬくもりあるその佇まいに、家をつくるとは本来こういったことではないかと思った

取材協力(有)旭建硝
URLhttp://www.iimado.site/
取材日2020年2月19日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス